1. 佐渡を紹介 さどじまん
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たらい舟、宿根木集落、万畳敷と小木半島をコンプリート!

たらい舟、宿根木集落、万畳敷と小木半島をコンプリート!

ライター:栗山尚久 くりやまひさし

プロサイクルショップ勤務後に、自転車専門誌の編集スタッフとして雑誌作りに長年携わる。瀬戸内しまなみ海道をはじめとした全国各地の自転車ルートを取材し、その内容をまとめたムック『ニッポンのじてんしゃ旅』でライティング&ページ編集を担当。自転車+観光、自転車+アウトドアの楽しみ方を考えるのが好きなフリーランスエディター。

カメラマン:かねだこうじ(ハタケスタジオ)

DAY3

  • 電動アシスト自転車(eバイク)を利用して、南佐渡の静かな漁村をポタリング

【南佐渡の観光は電動アシスト自転車がぴったり】

大佐渡一周コース(ここに前編のリンク入れる)を楽しんだ後、延泊をした僕。翌日は、前々から興味のあった南佐渡に行くことに決めた。佐渡の最南端に位置する小木半島は、たらい舟や北前船の寄港地だった宿根木集落など見所もいっぱい。”もう一つの佐渡”ともいうべき独特の文化が残るエリアだ。行きたくてもこれまで二の足を踏んでいたのは、少し佐渡の中心地から離れているため。佐渡金山のある相川地区から小木地区までは約37kmの距離、フェリーが発着する両津港からも41kmほど離れている。

そこで、南佐渡を目一杯楽しむ方法として考えたのが、路線バスを使って小木港まで行き、そこで電動アシスト自転車を借りるプラン。佐渡では以前から『エコだっチャリ』として電動アシスト自転車の貸し出しを行っていたが、2021年からはスポーツタイプも加わり、より便利になったというのだ。貸し出し場所は、両津、相川、小木の3か所あり、乗り捨ても可能。自転車+観光を楽しみたい僕には、めちゃくちゃ便利なサービスだ。

これまで走ったことのない遠方まで自転車で。自転車だと、同じ景色も違って感じられるはず

「電動アシスト自転車であれば、体力に自信のない初心者でも楽しめるはず!」ということで、今回、初心者代表として相川在住の竹内めぐみさんと合流して巡ることに。「小木のほうにはほとんど行ったことないです」という竹内さん。やっぱり佐渡の人でもなかなか行けない場所なのかな、などと思いを巡らせながら路線バスで小木港へと向かう。

小木のレンタル場所は、港の目の前にある南佐渡観光案内所。前面に木材と竹が施された外観が目をひく建物だ。レンタルできるのはシティタイプ、スポーツタイプ、スポーツタイプミニの3種類。シティタイプは前カゴのついたいわゆるママチャリなので、スポーツタイプのいわゆる“eバイク”を選ぶ。私は身長159cm以上の制限があるスポーツタイプを、小柄な竹内さんは小径車のスポーツタイプミニを借りることに。

身長が低い人も安心。身長146cm以上の人なら利用可能なスポーツタイプミニもあり。小物も入れられるフロントバッグ付き

  • いざ初めてのeバイク旅へ。佐渡一周線の県道45号を途中、寄り道をしながら西に向かう

レンタルの手続きを済ませて、スタッフの方から変速方法や電動アシストの操作方法をレクチャーしてもらう。手元の操作でアシスト力の強さを調整することができるので、体力に自信のない人は「ハイモード」を選ぶといい。普段、自転車にはあまり乗らないという竹内さんが不安にならないように、港の前で試し乗り。サドルの高さを調整して、ストップ&ゴーの練習をする。「大丈夫そうです」という言葉を聞いて、いよいよ出発だ!「小木半島の西端の万畳敷まで行ってみましょう!」と声をかける。

今日走るのは基本、佐渡一周線の県道45号のみ。途中観光をしながら万畳敷まで走って、折り返し戻ろうと考えていた。距離は20kmほど。スポーツタイプの自転車に慣れない人にとっては、距離感が掴めないと思うけれど、eバイクだと本当に楽々。竹内さんもアシスト力に「すごい楽です(笑)」とびっくりしている様子。坂道でのアシスト力はもちろんのこと、平地でもその威力は絶大。体験したことない人は一度走ってみれば、10km、20kmなんて走行距離はなんでもないと実感するはずだ。

  • 湾状になっている矢島・経島でたらい舟に乗る。海中に藻の間を魚が泳いでいるのが見えた

【矢島・経島のたらい舟体験で佐渡の海の豊かさを知る】

3kmほど走って、矢島・経島(やじま・きょうじま)に到着。ここは佐渡のポスターなどでもよく目にする、たらい舟体験ができる観光スポット。小木半島の海岸線は岩礁があったり、入り組んだ地形をしている。そのため、船だと入りづらい場所で漁がしやすいように、洗濯桶を改良したたらい舟を使うようになったんだとか(※諸説あり)。

たらい舟に乗り込むと、女性船頭さんが器用に艪(ろ)をUの字を描きながら漕いでいく。「昨夜、雨が降ったからちょっと濁っているけれど、小魚が泳いているの見えますか」。あ、見える。小魚が藻の間をスイスイと泳いでいく。「あれはクロダイですよ」。

船頭のお母さんの艪を漕ぐ姿がカッコいい。説明しながら、湾内を案内してくれるので楽しい

元々、矢島と経島は2つの島だったらしいが、「地震の際に隆起が起こって、陸続きになったんですよ」と教えてもらう。シンボルチックな赤い太鼓橋の向こうは大海原。直接波が入ってこない入り江になっているので、貝を採ったり、藻を採ったりするのにも適していたんだろうなあ。

矢島・経島との間にかかった太鼓橋。魚が湾内に入ってくるのは佐渡の海が豊かな証拠

「艪を漕いでみます?」とお母さんに聞かれたのでチャレンジ。タライの上になんとか立つものの、力を抜きつつ左右に艪を振ることができない。何度かチャレンジしてみたが、進みたい方向からどんどん曲がっていってしまった。「難しいですね~」。でも、とても貴重な体験ができてうれしい!

「あれれ、曲がっていっちゃう」。どうしても力が入ってしまい、いらぬ方向へ

  • 解説も楽しかった素敵なマダム船頭。伝統的なかすり衣装と編笠が様になって、これまた素敵

  • 沿道に南国!?っぽいヤシの木が。しばらく田んぼを眺めながらのんびり進む

【ここはラビリンス⁉︎ 宿根木集落でタイムトリップ】

矢島・経島から急坂を上り直して、県道45号に戻る。周囲に森林地帯や水田を見ながら、のどかな道をのんびり進むと、ヤシの木の脇に「沢崎海岸5km、宿根木1km」の標識。このコースで立ち寄りたい2つの地名が現れる。宿根木に向かう前に、南佐渡のことをもっと知る上で訪れておきたいスポットがあった。『佐渡国小木民俗博物館・千石船展示館』だ。

  • 旧宿根木小学校に併設された千石船展示館。ここが佐渡国小木民俗博物館の入り口

  • 日本海を行き来していたであろう千石船を実物大で再現。間近に見学できる

入り口に千石船展示館と記された、大きな三角屋根の建物がまず目につく。「うわー、結構デカイ!」中に入ると、当時の版画をもとに再現された千石船『白山丸』がドドーンと展示されていた。江戸時代に、このような千石船(北前船)が大阪と北海道を結んで米や魚を運んだという。18世紀のはじめ頃には、日本海と瀬戸内海を使う西廻り航路のほうが盛んに使われるようになったのだとか。実際に船の甲板にも上がれて、乗船時の雰囲気も感じることができた!

展示品だけでなく、建物自体もとても貴重。レトロなものが好きな人にはたまらない場所だ

自転車に乗って、佐渡国小木民俗博物館の先の坂道を下ると、右手に瓦屋根と木羽(こば)に石を載せた屋根の家屋が密集した集落が現れた。その向こうに広がる海。ここがどうやら目指していた宿根木の集落のようだ。宿根木は江戸時代中期から明治にかけて、廻船業で栄えた町。佐渡の最南端に位置し、小木海岸の入り江の狭い範囲に、船大工などの造船技術者が居住していたという。現在では新潟県で唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。

宿根木集落の家々の屋根が見えてきた。木羽を敷いた特徴的な屋根の家も

自転車は案内所脇の駐輪場所に置いて、宿根木集落の中へ。一歩足を踏み入れると、主屋、納屋、土蔵がほとんど隙間なく立ち並び、細い小道が家々の間を迷路のように通っている。120戸500人ほどがこの集落に居住していたのだとか。敷地一杯に建てられた2階建ての家屋や小道はどこを切り取っても絵になる不思議な集落。内部を一般公開している『清九郎』や『三角家』などの民家もあるので、時間をとって見学するのもいい。

路地の角に立っていた『三角家』。異空間に入り込んでしまった錯覚に陥る

  • 郵便局の看板も懐かしい。路地の奥にあった『宿根木 お料理あなぐち亭』

旧郵便局の看板を通り過ぎた先の路地に入ると、なにやら食事のできそうな趣きのある外観の邸宅があった。「ちょっとお腹が空いたので、お昼休憩しましょう」。じつはここ『宿根木 お料理あなぐち亭』は、そばとフランス料理が楽しめるというお店だった。なんでもまだ、今年の4月下旬にオープンしたばかりと聞いてびっくり。ずっと営んでいる老舗のような落ち着いた雰囲気に、すでにこれは大当たりの予感。

  • ミニランチコースのメインディッシュは2種類から選べる。二人で「おいしい!」

頼んだのはミニランチコース。自家製パンとスープ、前菜3種の盛り合わせに加えて、佐渡産鮮魚のブイヤベース仕立て、または、仔羊のモロッコ風煮込みから選べるというもの。「なんとも上品な味わい!」料理のおいしさは言わずもがな、室内から眺める中庭の風情といい、最高に贅沢な時間だ。宿根木集落の小道に迷い込み、本格的なフランス料理を伝統的な日本家屋の中で味わっているというなんとも不思議な感覚。時間をかけて訪れる価値は大いにあると思う。

  • 内陸に深く入り込んだ入り江にかかった長者ヶ橋。かなり高低差があってダイナミック

【長者ヶ橋を渡って、小木半島の西端を目指す】

宿根木の集落を後にして、さらに西へ進む。eバイクなら、集落からの上り坂もスイスイ。海岸線を走っているとどうしても出てくるアップダウンも全く苦にならない。景色の変化が楽しめるので逆にどんどん坂があって欲しいくらいだ。どんどん人家が少なくなり、水田地帯を過ぎた後、周囲が山がちな道に入る。わずかに上っていたようだ。プチ森林地帯を抜けると前方の視界が開けて、深い入り江に架かる白い大橋が見えてきた。宿根木から3kmほどの位置にある深浦地区に架けられた長者ヶ橋だ。柱から扇状に渡されたケーブルが印象的。この橋が架かるまでは、かなり行き来するのが大変だった場所なのだろう。

長者ヶ橋を渡ってすぐ左手に沢崎鼻灯台が見えてきた。小木半島の西突端、沢崎鼻に建つ八角形の柱状の灯台で、ここまで来たら、佐渡一周線の県道45号の終点が近いことを意味している。とは言っても、自転車をレンタルした小木港からも10kmほどの範囲で、ここから来た道を戻っても約20km。さらに先にある万畳敷まで行っても大した距離ではないので、十分時間はあるはず。灯台近くには歌人・与謝野晶子の歌碑を見ながら、しばらく海風を感じていた。

小木半島の西端に建つ沢崎鼻灯台が見えてきたら、目指す万畳敷はもうすぐ

  • 「岩でできた草原みたい!」。万畳敷で波音を聴きながら午後のまったりタイム

佐渡一周道路の終点、万畳敷で佐渡旅を振り返る

沢崎鼻灯台をさらに先に進んで、再び海に向かってダウンヒル。下りきった先の海岸が県道45号の終点『万畳敷』。ここは、ウユニ塩湖のようなインスタ映えする写真が撮れると最近話題のスポット。潮の満ち引きで姿を変える溶岩帯が、一面に広がっている。万畳敷という名前は、佐渡にある千畳敷を文字って写真家の人が付けたらしい。この平らな岩場に海水が溜まると鏡状になって、夕暮れ時には陽が反射した美しい光景が見られるとか。

eバイクで走ると、車では感じることのできない佐渡の風と、周囲の自然や空気がよりダイレクトに感じられるはず。体を動かす爽快感と観光を同時に楽しめるのが、自転車観光のいいところだ。乗り慣れた人なら、万畳敷から相川や両津まで走って、乗り捨てプランを選択するのもいい。公共交通機関が路線バスしかない佐渡では、本数の少ないバスを待つより、自転車で走ってしまうほうが便利という場合もある。自身の体力やプランに応じて、うまく『エコだっチャリ』を利用して、なかなか行けない南佐渡までの旅路を楽しんでもらいたい。

海岸線を走っているとアップダウンは必至だけど、eバイクがあれば楽々

南佐渡から自走時に立ち寄りたい人気ベーカリー&カフェ

南佐渡から相川、両津方面に向かう国道350号の途中にある人気ベーカリー&カフェの『しまふうみ』。自家製酵母をベースに発酵させた焼き立てパンが人気のほか、軽食もテラスのイートインスペースで食べることができる。眼下に日本海が見渡せるロケーションなので、南佐渡から自転車で戻る際はぜひ立ち寄ってほしい。佐渡乳業のミルクを使ったソフトクリームもとてもさっぱりとした味わいで、サイクリング中の補給にもってこいだ。

  • 南佐渡までの行き来にもeバイクを利用して、景色の変化を楽しもう

プランの選択肢が格段に増える、佐渡eバイク旅

今回、小木でeバイクを借りて南佐渡を巡ったが、プランはそのほかにも考えられる。例えば、両津でeバイクをレンタルし、小木まで自走して周辺を巡った後に小木で乗り捨て、バスで両津まで戻るプラン。その逆もしかり。南佐渡への行き帰りのどちらかを自走にして、乗り捨てサービス(+1500円)を利用するというプランだ。。相川に宿泊する人も多いと思うので、両津スタートをそのまま相川スタートに置き換えてもいい。もちろんもっと走りたい人は、南佐渡への行き帰りともeバイクを使うプランも組める。

なぜ、そんなプランが組めるかと言えば、eバイクのバッテリーの持ちが圧倒的に良くなっているので、1日走るくらいであればバッテリー切れを心配する必要がないこと。また、予備バッテリーの貸し出しも+500円であるので、万が一のバッテリー切れが心配だ、という人には有り難い。『エコだっチャリ』を利用すれば、体力に自信のない人でも佐渡のサイクリングを存分に楽しめるという訳だ。次の旅はeバイクをレンタルして、佐渡をサイクリングしてみませんか?