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海を臨む縦走路と奇跡の造形美に触れる佐渡の山旅 【前編】
ライター:吉岡智子 よしおかともこ(ハタケスタジオ)
登山・アウトドアに特化した制作会社のWEBディレクター兼デザイナー、ときどきライター業。山行も仕事のうちと自分に言い聞かせて、平日も山に向かいがち。土木業界で研究職に従事し、その後WEBデザイナーに転身。最初に勤務した会社で山に出会い、現職。カメラとマイナー山が好物。
カメラマン:宇佐美博之
島の旅と聞いて思い浮かぶのは、キラキラと輝く海、そして美味しい海の幸!
みなさんどうでしょうか。佐渡島の旅もそれでほぼ間違えありません。
しかしここで紹介したいのは…
フェリーからワクワクしながら見つめるその先、もう見えていますよ、今回の旅の舞台、金北山(きんぽくさん)を最高地点とする大佐渡山地が。
…そう、海を渡って佐渡の山を歩き尽くす旅なのです。
全行程 4 日間の旅のご紹介となりますが、ずっと山に籠るわけでありませんので、組み合わせは日程に合わせてみてください。
前編では佐渡の原生林で天然杉の巨木を巡るツアーの模様を、後編では金北山を目指す大人気の縦走ルートをご紹介します。
<前編>奇跡の自然条件が作り出した天然美術館へようこそ!
DAY1
DAY2
【海を渡ってあの頂へ】
まず佐渡島へは新潟港からフェリーで海を渡ります(※)。島旅の気分を上げてくれるのはやっぱり船。
今回の旅のお供は、山はいつだって楽しい!笑顔が絶えないマキさん。彼女にとって、はじめてのフェリー、はじめての佐渡島!もうワクワクが止まりません。
(※)佐渡島へは新潟港または直江津港から佐渡汽船のフェリー、ジェットフォイルを利用
両津港から佐渡島へ上陸し、まずは両津港から徒歩 5 分のところにある「SADO OUTDOOR BASE(佐渡アウトドアベース)」へ。オリジナルグッズやアウトドア用品を取り扱うショップスペースのほか、ガイドツアーの案内や道具のレンタルも行っています。忘れ物があった時は助けてもらえるかもしれませんよ。
【「ただいま」が言いたくなる宿】
明日参加する原生林エコツアーは、両津から車で1 時間20 分ほど離れた島の北西部に位置する山の中を歩くことになっています。そこで、今日のうちにツアーの集合場所に近い「民宿 かわぐち荘」へレンタカーで向かいます。
かわぐち荘はエコツアーの元ガイドでもあるご主人がご夫婦で切り盛りしている民宿。女将さんのあふれんばかりの笑顔に迎えていただき、さっそく夕飯をいただきます。
次々に並ぶ佐渡のごちそう‥極めつけは、この日久しぶりに釣れたという大きな鯛のお刺身お頭付き!!歓声が上がらないわけがない。お刺身だけではなく、山菜やナガモ(海藻)、野菜の煮物に魚のフライ…手の込んだお料理はどれも美味しくて箸が止まりません。
ご主人が明日エコツアーに行くからと、原生林を紹介するDVD を流してくれていたのに…お料理に夢中で実はほとんど頭に入っていませんでした、ゴメンナサイ!
ここかわぐち荘は創業して45 年ほど。ご主人3 年ほど前から身体のことが心配でガイドは引退。現在はルートの整備などのお手伝いをなさっているそう。
佐渡の魅力を伺うと、いくつか景勝地を挙げた後に「花は『オオサクラソウ』。島内ではここにしかないからね。あと『連結杉』はぜひ見てきて。」と。
新潟県では危急種に指定されているオオサクラソウ、壁に飾られた絵画の中にあった連結杉。どちらも明日、会えますように。
【原生林エコツアーで秘密の森へ】
2 日目、朝ごはんに佐渡のおいしいお米をしっかり食べて原生林エコツアーへ出発です。
このツアーは、佐渡の自然と歴史が造り上げた天然杉の巨木を巡る 3 コースがあり、自由に出入りすることのできない原生林へ、1 日の人数を限定したツアー参加者だけがガイドさんの案内の元、足を踏み入れることができます。
今回参加するのは 2008 年北海道洞爺湖サミットで紹介され有名になった金剛杉を見ることができる「外海府(そとかいふ)コース」。外海府活性化センターに集合し、各々の車で登山口まで移動します。
登山口に到着したら鳥たちの囀りを BGM に、準備運動と今日のルートの説明を受けます。
案内してくださるガイドさんは両津ご出身の磯野正博さん。私たちと女性 2 人組の 5 人で出発です。
歩きはじめから足元には花があふれています。
ニリンソウ、ヤマシャクヤク、ホウチャクソウ、そして珍しいクマガイソウも…挙げるとキリがありません。
その中でもひときわ地味な花、か細くて緑色、風に吹かれて消えてしまいそうなフワフワとした白いおしべ‥日本の固有種、その名は「ヤマトグサ(大和草)」。植物学者の牧野富太郎が日本人で初めて新種として発表したという経緯もあり、日本を代表するような名前なのだそう。佐渡以外でも見られますが、わざわざ佐渡のヤマトグサを見に訪れる人もいるそう。
【雪国ならではの大杉の造形】
歩き出して 1 時間ほど、ようやく 1 つ目の杉の巨木「関の大杉」が現れました。
一同「おおおおお!」と声が重なり合います。足元の花々を見ていた視線は空へと広がる大杉へと奪われ、ここまで教わってきた花の名前を忘れてしまいそう。
佐渡の巨木杉の中には、幹は太くどっしりしているのに、上部は枝分かれし細い枝がたくさん広がっているものがあります。何故でしょう。これには雪国ならではの理由が隠されています。冬、十数メートル積もった雪より上へ出ている杉を伐採し、雪の上を滑らせて運んだそうです。これを「雪上伐採」と言います。雪に埋もれた部分はそのまま残り、伐採された切り口から新しい枝が伸び、下の幹はさらに成長して太くなります。そうして形作られたのが関の大杉や、このあと登場する金剛杉なのです。
関の大杉を後にして進むと、「フランギ観音」が現れます。その昔、日本海で嵐に遭った船が一瞬の光を見つけその方向へ進むと、関の集落にたどり着けたそう。その後、光を放ったと思われるこの地に観音様を奉納したとのこと。
さて、この「フランギ」とは、遭難しかけた船員さんのお名前でしょうか。磯野さんに聞いてみると、かつてこの地は関の集落から両津へ海産物を運んだ交通の要所「札ノ辻(フダノツジ)」と言われており、そこから…「フラノツジ‥フラツジ‥フランギ!」になったとのこと。ちょっと無理やりでしょうか?!
【躍動感あふれるの金剛杉】
いよいよ金剛杉とのご対面。
目の前に現れた金剛杉は、まるでジブリ映画に出て来そうな巨大生物の様。どっしりと太い幹から幾重にも伸びる細い枝は、まるで私たちがナニモノなのかを確認する触手のように、今にも目の前まで伸びてきそう。もちろん生きているのですが、巨木らしい「静」ではなく「動」の生命を感じます。日本海の厳しい冬を終えて温かい日差しを受け、自らの成長を、そして森の成長を鼓舞しているようにも見えました。
【読み方は?関越の仁王杉】
「関越の仁王杉」さて、何と読みますか。
関東に住むマキさんも私も、迷うことなく「かんえつの…」と同時に言った途端に、磯野さんがニヤニヤ顔で「やっぱりね~」。関(せき)の集落から続く道にあるので「関越(せきごえ)の‥」が正解!まんまと引っかかりました。
そんな仁王杉、原生林の中にある巨木たちが見つかる前までは、佐渡で一番大きいと言われていました。
大きさも然る事ながら、この杉のすごいところは、幹に巻き付いて一体化した立派なツルアジサイ。この時期はまだ花を付ける前でしたが、花の時季には仁王杉との見事な共演が見られるでしょう。
【芸術作品の中でランチタイム】
仁王杉を後に、しばらく整備された林道を進むと、いよいよかわぐち荘のご主人がぜひ見てほしいとおっしゃっていた連結杉に到着です。
元の幹はカミナリなのか、何らかの理由で裂け、隣の杉に寄りかかって、その杉も倒れて、枝が地面について根を張り…と次々と偶然が連結して出来上がった森の作品。
その根元に腰かけ、降り注ぐ光に包まれると、自らもこの作品の一部として溶け込んでしまうような不思議な感覚に陥ります。
ちなみに「連結杉」という名称になる前は「ドミノ杉」だったそう。
確かに、その成り立ちからすると間違ってはいないけれど…一同しっくり来ていない顔になりました。
【待ちくたびれた大王様】
連結杉ですっかり盛り上がってしまった一同、予定よりやや遅れ気味で大王杉に到着~と思いきや、先に現れたのは二天杉。大王様に謁見する前に、まずはコチラにご挨拶と
続いて大王杉へ。
「待ちかねておったぞ!連結杉で盛り上がりすぎじゃないか?」
と、磯野さんが大王杉の心の声を代弁?!
まさに天まで届きそうなほどの二天杉と、大王のごとく立ちはだかる大王杉。どちらも上まで真っ直ぐに伸びていることから、これらは雪上伐採されていない天然杉だと分かります。
【生命をつなぐ造形美】
いよいよツアーも終盤。山の稜線を上がると、両津湾を見下ろせます。巨大な古木に囲まれた原生林の中にいると、深い山の奥地にいるようで海が、遥か遠くの存在になっていました。
そんなことを思いながら正面に目を向けると現れたのが、かつて JR 東日本のポスターに使われたという風衝樹形(ふうしょうじゅけい)の杉。強風の衝撃で、大きく曲がった枝が風の吹く方へ流れるように伸びています。それを見ていると、風吹き荒れる尾根の場景が目の前に現れたような気がしました。
そしてこの杉、公式には名無しなのですが、「JR 杉」なんて呼ぶ人もいるようで、ガイド試験のひっかけ
問題にもなっているとかいないとか。
「これが今日最後の巨木です」
現れたのは、まるでタコのようなズバリ「タコ杉」。
驚いたことに、タコの足のように地面まで伸びているのは全て枝であり、本体(幹)は朽ちて無くなってしまったとのこと。そのため、真ん中がすっぽり抜けています。
幹を失ったこのタコ杉はどのように生きているでしょう。
杉は連結杉の時にも説明がありましたが、枝が地面に着くと、うまくいけばそこから根を張ることができます。ギリギリの状況でも命をつないできたのです。
仁王、金剛、大王と、強そうな名前ばかりでしたが、このタコ杉にこそ、生き残ろうとする底力を感じました。
【美術館を巡るような 1 日だった】
紹介しきれなかった天然杉、花々がたくさんありました。
早春の名残、雪割草や、かわぐち荘のご主人がおすすめしてくれたオオサクラソウ、道先案内をしてくれた昆虫たち…数えきれないほどの「美しい」が次から次へと五感に飛び込んで来て、全員頭がパンク寸前(いや、パンクしていたかも・・)な一日でした。
最後は落差 20m の段瀑「関の大滝」に立ち寄り、ツアーは無事終了。
帰路につきました。
海岸沿いの道は、日本海の夕景があまりにも素晴らしく、明日の山行に向けて早く休まなくてはいけないのに、いつまでも眺めていたい、そんな気分でした。
後編はアオネバから金北山へ!花と海の縦走路をご紹介します。
「原生林エコツアー」について
新潟大学・佐渡市・地元集落・ガイド協会の協力により、佐渡観光交流機構主催の環境に配慮したエコツアー。ツアーの詳細や参加申し込みについてはこちらのページをご覧ください。
今回ご案内くださった磯野さんのほか、認定を受けたエコツアーのガイドさんが案内してくださいます。
集合場所への交通アクセスが不安な場合でも、ご相談ください。