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海を臨む縦走路と奇跡の造形美に触れる佐渡の山旅 【後編】

海を臨む縦走路と奇跡の造形美に触れる佐渡の山旅 【後編】

ライター:吉岡智子 よしおかともこ(ハタケスタジオ)

登山・アウトドアに特化した制作会社のWEBディレクター兼デザイナー、ときどきライター業。山行も仕事のうちと自分に言い聞かせて、平日も山に向かいがち。土木業界で研究職に従事し、その後WEBデザイナーに転身。最初に勤務した会社で山に出会い、現職。カメラとマイナー山が好物。

カメラマン:宇佐美博之

佐渡の山満喫旅、後編は佐渡島最高峰の「金北山(きんぽくさん 1,172m)」を目指し、島の北部位置する大佐渡山地を 1 泊 2 日かけて縦走する人気のルートをご紹介。今回は花々が咲き誇るアオネバ登山口からドンデン高原を経て金北山縦走ルートへとつなげます。

この時期はとにかく登山道まで埋め尽くされそうなほど花・花・花!佐渡ならではの植生にもぜひご注目ください。

<後編>花も開放感も満載!海上の縦走路で最高峰金北山へ

DAY3

DAY4

【登山に大事なのは腹ごしらえ!】

良く晴れ渡った早朝、ライターのワタシとモデルのマキさんが登山装備を背負い向かったのは、両津で人気のコンビニ「ハーティ・ウッズ」。扱うのはできたてのお弁当類、島内にあるベーカリーのパンやスイーツ、飲み物にお菓子。山へ入る前に立ち寄るにはもってこいのお店なのです。今日のお昼と明日の行動食をこちらで購入し、バックパックへ詰め込みます。

  • 2 段の棚にぎっしり並んだお弁当やドーナツ

  • サンドイッチやおむすびに、バラ売りの揚げたてからあげも!

次に向ったのは佐渡汽船両津港ターミナル。1 階にある早朝オープンのカフェ「maSanicoffee(マサニコーヒー)」で朝ごはん。店長さんの笑顔に迎えられ、そのままメニュー表に目を落とす。マキさんは定番のトーストのセットを、ワタシは「茶粥」という佐渡の郷土料理のセットをチョイス。カフェで郷土料理が食べられるとは!
分厚くてサクフワ、佐渡バターがじんわり染みたトーストと、やさしい味付けの茶粥、そしてじっくり淹れてくださったコーヒーがほんとに美味しくて、帰りにまた寄ろうと密かに決意。

  • 広い窓にゆったりした座席で、ついつい長居したくる店内

  • 佐渡の郷土料理「茶粥」。やさしい味で、意外にも珈琲が合うのです

登山に大事な「食」の準備をしっかり整えたら、両津港からアオネバ登山口を経由してドンデン高原まで向かうバス「ドンデンライナー」に乗車します。
花の時期事前予約は必須!あれよあれよと笑顔とワクワクで満席になったバスは登山口へ向けて出発進行ー!

※ドンデンライナーについて詳しくはこちら

【新緑と小さな花々が輝くアオネバルート】

アオネバ登山口に到着し、「佐渡の山のことはこの人に聞け!」と言っても過言ではない、佐渡トレッキング協議会の市橋弘之さんと合流。本日の宿、ドンデン高原ロッジまではコースタイム 3 時間ほど。登山届をポストに投函して、新緑がまぶしい登山道へと足を踏み入れます。

案内役の市橋さん(右)。登山届ポストはこちらにあります

歩きはじめは凛としたヤマオダマキ、白い花が可愛らしいコンロンソウ、コケイランが出迎えてくれます。そして原生林ツアーで教えてもらったヤマトグサもありました。

左からヤマオダマキ、コケイラン、コンロンソウ

光さす新緑の森、小さな白い花たちを説明してくださいながら市橋さん、「しかし地味だなぁ~」って!
市橋さん、トレッキング協議会のブログや SNS で最新情報を発信していて、いわゆる「映える」花がお好きなよう。でも、そんなこと言いながら、小さな花たちの魅力が分かる見え方、写真の撮り方を教えてくれます。日々佐渡の山の花々を見つめ続けている市橋さんならでは。

エンレイソウが現れ始めたところで「エンレイソウは葉が 3 枚、ガクが 3 枚が普通でしょう?中には 4 枚5 枚のがあるから探してみて!」と市橋さん。
そんなのあるのかなぁ・・と思っていたらありました、ガクが 5 枚で葉も 5 枚!続けてマキさんが「あれ?これは??」と指さしたのは葉 3 枚にガク 6 枚?と思ったらなんと通常あまり見ることの無い花びら 3 枚とガク 3 枚のエンレイソウ!これには市橋さん思わず「エライっ!」。変わり種探しで大盛り上がり。

  • 左:ガク 5 枚、葉 5 枚のエンレイソウ/右:花びらがあるエンレイソウ

  • 新緑と沢の流れがキラキラ輝く登山道

沢沿いに標高を上げて、中間地点の「ユブ」が近付いてきます。気になるこの名前。さっそく市橋さんに聞いてみると「土壌がユブユブ(ゆるゆる)しているから」と。ここの名称を市橋さんが名付けるなら?と聞いたら即座に「ユブユブ!」と。これには一同大笑い。

  • ユブに到着。市橋さんのトークで笑いっぱなしの休憩。

  • 足元にあふれるニリンソウ。歩くごとにユラユラ

ユブでの休憩をはさんで、次なるポイントアオネバ十字路まであと一登り。途中「アオネバの青い地層が見えますよ」と市橋さん。不思議なほどに青い土が斜面に見えます。この青くて粘った地層から「アオネバ(青粘)」という名称が付いたそう。ユブといいアオネバといい、カタカナだと何か歴史的な背景があっての名称なのかと思いきや、意外にも単純明快でした。

  • 斜面にもいっぱいニリンソウ!

  • 青い地層の正体は「緑色凝灰岩(グリーンタフ)」。海底火山が噴火した際の火山灰が変質したもの

【こんなに咲くの?!シラネアオイ】

斜面いっぱいの花々に気を取られたおかげか、ユブから 30 分ほどの急登もあっという間に感じられるほど、金北山とドンデン高原への分岐となるアオネバ十字路に到着。

広くて休憩にもちょうどいい場所。見渡せばシラネオアイの株がいくつも!驚いていたら市橋さんは「まぁこんなもんでしょ」とあっさり。続けて「これから行くところはみなさん花園と呼んでますよ~」と。
これは期待しちゃいます。

花園への道中、足元は白から黄色に染まり出します。左からミヤマカタバミ、ミヤマキケマン、エチゴキジムシロ

ドンデン高原の周遊コースに入ったところから、市橋さんに導かれるままに歩みを進めると、シラネアオイが左右にチラホラ現れ、あっという間に登山道まであふれんばかりの数に「え?こんなに咲くことってある?!」。

  • シラネアオイに囲まれて、まさに花園。思わず笑顔がこぼれます

これまでの経験から想像しえなかった数のシラネアオイの群生が目の前に現れ、驚きと感動で気持ちの整理が追い付かない!人の手が加わっていないというのだから、さらにビックリ。本州では鹿の食害が問題となり、山域によっては柵に囲われたシラネアオイがあるぐらいというのに…。市橋さんが言うところの「秘密の花園」は、佐渡の宝物だと思いました。

  • 日本の固有種で、透き通るように美しい花びらのような部分はガク片

  • 日々佐渡の山を見守っている市橋さん、シラネアオイの案内には得意気

【ドンデン高原の真っ赤な夕日 】

シラネアオイの興奮冷めやらぬうちに、ドンデン高原ロッジに到着。
山小屋というより山上のホテル。眼下には両津湾と加茂湖、向かい側に小佐渡山地を見渡せる絶景地に建っていて、このロケーションだけでも人気であることが伺えます。
受付を済ませたら、景色を堪能しつつハーティ・ウッズで購入したおにぎりをパクり。夜は星が見えるかなー。

見晴らし抜群のドンデン高原。最高のランチタイム

  • 今回のお部屋は六角形のプラネタリウム室。窓からたっぷりの日差しと広い空間でのんびり。

  • ビュッフェ形式の夕食は山の上とは思えない。もちろんおかわりし放題!

あっという間に夕方となり、食事を済ませたら、ロッジから歩いて 20 分ほどの尻立山まで散歩に出かけました。尻立山から見た夕日は赤く、前日海岸沿いで見た夕日も真っ赤だったので、日本海へと沈む夕日は赤が濃くなるのかなぁなんて思いながら、真っ暗になる前にロッジへと戻りました。
夜は雲が出てしまい、残念ながら星空はお預け。
明日に備えておやすみなさい…。

  • 夕暮れのドンデン高原ロッジ。六角形の部分が特徴的で 1 階は食堂、2 階が大部屋兼プラネタリウム室

【縦走前に朝の散歩】

今日はいよいよ人気の縦走ルートへ。
と、その前に早起きして再び尻立山へ。山に泊まったからにはとことん楽しむスタイル。
朝食後は出発時間まで外のテラスでコーヒータイム。こんなにのんびりしちゃうと、山に登る気力がどこへ行ってしまいそう?!

  • 尻立山への登山道から。眼下には夜が明けた両津湾

  • ロッジ前のテラスは登山開始前の準備をするのにちょうどいい

金北山縦走 2 日目も、市橋さんにご案内いただきます。今日は縦走路入口から樹林帯を登りマトネの山頂へ。そこからは金北山を正面に見ながら開けた稜線歩きがメイン。金北山からゴールの白雲台までは舗装路歩きとなります。

これから歩くマトネから金北山までの稜線を見渡しながら、どんな山行になるのか楽しみで仕方ありません。

【ニリンソウから始まる縦走路】

縦走路入り口から登山道に入るとニリンソウがたくさん!そこで市橋さん「3 つ一緒に咲くニリンソウもあるんだよ」と。昨日のエンレイソウに続いて、変わり種探し…すると 2 株 3 株と、思いのほか次々に出てきます。まるで親子みたい。

  • お父さん、お母さん、おチビちゃんかな。

  • 冗談を交えつつ、たくさんのことを教えてくれる道中は笑ってばかり

マトネに到着する少し手前、登山道とは別の踏み跡が。かつて放牧していた牛の踏み跡で 5~6 年前まで縦走路に放牧している牛が歩いていたこともあったそう。

マトネまでの登りはシラネアオイ、スミレ、オオイワカガミに彩られた登山道を登っていきます。色鮮やかで疲れ知らず

【ようこそ!海を臨む縦走路】

マトネに到着すると一気に視界が開けます。
前方には目指す金北山。これが思いのほか遠くに見えて思わず気合いが入ります。

  • 正面に目指す金北山が現れます

歩き出してまず目に留まったのはこれまで沢山見てきた花の中でなかった色、朱色が美しい開花直前のレンゲツツジ。さらに稜線上を進むと見えてくるのは両津湾。海を見ながらの稜線歩きは本当に開放感があって気持ちがいい!

海が近い縦走路は、開放的でどこまでも歩けそう

稜線上はザレ場(砂や小石で覆われた斜面)が多く、マトネまでの瑞々しい新緑と花尽くしから一転したように思えますが、樹林帯に入ると、花々は健在。樹齢を重ねた天然杉も。さらに、真砂の芝生付近では、青い地層(アオネバ)も見受けられ、稜線上でここまでの振り返りテストが出来そうです。

左上から時計回りに レンゲツツジ、イワカガミ、白いイワカガミ、ナガハシスミレ(通称テングスミレ)

マトネから金北山までの中間地点、真砂の峰は金北山を正面に稜線を見渡せ、これぞ佐渡自慢の縦走路!
といった景色が広がります。眼下には両津湾が良く見え、最高のロケーションです。

  • 正面に金北山

  • 眼下には両津湾と加茂湖

開けた稜線上、アップダウンを繰り返していると、右手側にも海が見えてきました。
稜線の左右に海が見える、これぞ島ならでは!

  • アップダウンの繰り返し、ピークに上がる度に海を見て一呼吸

  • 右手に見えた海岸線。南片辺の辺りかもしれない‥とのこと

【驚きのカタクリ大群落と「白」探し】

金北山山頂まであと一息のところ、斜面を覆いつくすカタクリとショウジョウバカマ。
さらに役行の者を過ぎると…右も左も、登山道以外のすべてを覆いつくすほどのカタクリ大群落!前日見たシラネアオイの群生に続き、今日はカタクリに圧倒させられます。
まさか 5 月の中旬過ぎた今、しかも同じ稜線上でツツジとカタクリを同時に見られるなんて!高くはない標高、しかし雪が遅くまで残るエリアもある、そのことで季節の進み具合に差が生じているのです。

一面のカタクリにビックリ。マキさんだけでなく、市橋さんも私も必死にカメラを向けました

これだけの数があれば、白いカタクリが見つかるかも!ということで探してみたら…あった!ありました!透けるような白さが可憐で見つめていると思わず息をひそめてしまいます。

しばらく大群落が続き「もはやこの花の量に慣れてきちゃった」とマキさん。「美味しいものも沢山あって、佐渡は贅沢者になる島だね!」
本当にその通り、質も量も全てが贅沢。

  • たくさんの紫色の中だと逆に目立っていたかも

  • この群落、登山道に雪が出てくるまで続いていました

【見晴らし抜群の金北山】

カタクリ大群落を過ぎると、あやめ池に出ます。静かな佇まいが先ほどまでのにぎやかさを落ち着かせ
てくれます。ちなみにあやめ池ですが咲くのはカキツバタとのこと。

金北山の斜面にまだ雪が残っていることがわかります

そこから「まだこんなに?!」と思うほどのシラネアオイに彩られた急坂を登り、いよいよ最高峰金北山山頂へと到着です。

下の方で見た株に比べて一回り小さく、かわいらしい

山頂からは、左に両津湾、国中平野を挟んで右に真野湾と、島の両側の海を見渡せ、海に浮かぶ山のてっぺんであることを実感。
さて、あとはまるでお城のような自衛隊の施設を横目に舗装路をゴールとなる白雲台までまっしぐら!!

右手には真野湾が見えています

  • 山頂裏手に回ると、歩いてきた稜線が一望できます

【下山後に欠かせないのはソフトと温泉】

白雲台交流センターに到着したらまずは濃厚な味わいが人気の生乳ソフトクリーム!建物の裏手にある
展望デッキでペロリと食べれば、疲れも吹き飛びます。

  • 佐渡の牛乳がぎゅっと詰まったおいしさ

ここから両津港を経由して椎崎温泉(しいざきおんせん)まで運行の金北山ライナー(定期運行バス・要予約)に乗っていざ温泉へ!

    椎崎温泉にある宿「朱鷺伝説と露天風呂の宿 きらく」さんの「朱鷺の舞湯」へ。目の前に加茂湖が広がり、ロケーション抜群!湖越しに見える金北山と歩いた稜線を眺めながら、驚きの連続だった花や景色、そして市橋さんの面白トークを思い出しながら、大充実の山行は無事終了となりました。

    宿の本館から道路を隔てて、加茂湖沿いに建てられている

    【おまけ:空飛ぶ鳥はトキかもしれない】

    今回の山行中、佐渡島ではその辺でトキを見ることができるよ、ということを聞き是が非でも見たいマキさんと私の願いを叶えるべく、翌日の出航前トキを探しに行きました!そして見事見れました!!
    佐渡のトキは保護センターのケージの中にいるのかと思っていたので、ビックリです。
    佐渡の空を舞う鳥、よくみたらトキかもしれませんよ!

    左:田んぼを歩くトキ
    右:金北山とトキ

    その後は、両津港へと戻り再び maSanicoffee さんへ!今度は船の時間までゆっくりしてから帰路につきました。

    帰りも佐渡汽船 おけさ丸。帽子のほか衣装も記念撮影用に借りられます

    山も花も海も食べ物も、すべてが充実しすぎた佐渡の旅。
    「来てみないと本当の良さはわからない」とはよく言いますが、今回の旅はそれを大変強く感じるほどの驚きと感動にあふれていました。
    みなさんもぜひ、この楽しい美味しい美しいが詰まった島へ、海を渡って行ってみませんか。

    佐渡トレッキング協議会 市橋さんのご案内、2 日間楽しすぎました!