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- 初心 忘るべからず - 能の大成者・世阿弥が辿り着いた佐渡島物語
初心 忘るべからず - 能の大成者・世阿弥が辿り着いた佐渡島物語
「初心忘るべからず」――どこかで耳にしたことがあるこの言葉は、能楽の名匠・世阿弥(ぜあみ)が遺した教えの一つです。初心を忘れず謙虚に芸道に励むべしというこの言葉は、現代でも自己啓発のフレーズとしてCMで使われるなど多くの人の心に響きます。そんな言葉を遺した世阿弥が、その人生の最晩年を過ごした場所こそ、新潟県の佐渡島です。能楽の巨人が流れ着いた島・佐渡には、彼の足跡とともに豊かな歴史と文化が今も息づいています。静かな海に囲まれた佐渡島へ思いを馳せながら、世阿弥が見たであろう風景と、「初心忘るべからず」の心を探す旅に出かけてみましょう。
世阿弥とは何者か – 佐渡に流された能楽師
室町時代、能楽の大成者として名を残す世阿弥は、能楽の名家・観世流の二代目として数多くの名作と芸道論を書き残しました。幼い頃から将軍・足利義満の庇護を受けて才能を開花させた世阿弥でしたが、やがて後継の将軍義教との確執が生じます。
そして1434年(永享6年), 70歳を超えた世阿弥は突如として佐渡国(佐渡島)へ流罪となりました。配流の理由は諸説あります。そして、流刑地の佐渡で小謡(こうたい)集『金島書(きんとうしょ)』を著しています。
佐渡での歳月の中、世阿弥は自らの芸術を深く見つめ直し、能楽論「花鏡(かきょう)」などの伝書にその思想を綴りました。能の舞台で観客の心に生まれる感動の力を「花」に例え、「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」という有名な言葉を残しています。また、先述の「初心忘るべからず」の教えにもあるように、どんな名人でも初舞台の緊張感や謙虚な心構えを忘れてはならないと説き、生涯にわたり精進を重ねる姿勢を示しました。
苦難の佐渡での生活にあっても、その初心と花の理念を胸に研鑽を積む世阿弥の姿が目に浮かぶようです。
世阿弥ゆかりの地を巡る – 佐渡に息づく能の伝統
佐渡には、「世阿弥のあるいた笠取峠のみち」と名付けられた中部北陸自然歩道や、佐渡上陸後の世阿弥が立ち寄り「金島書」に記したゆかりの地である長谷寺、世阿弥が雨乞いの舞に使ったと伝わる「神事面べしみ」が残る正法寺など、多くのゆかりの地が残っています。
時代が下り、江戸時代に佐渡奉行となった大久保長安が佐渡島内に能を広めたと言われ、現在でも島内各所に大小あわせて30を超える能舞台が現存しており、人口あたりの能舞台数は日本一とも言われます。
春から秋にかけて各地では薪能(たきぎ能)などの公演が行われ、地元の人々が伝統の演目を舞う姿を見ることができます。
島民に脈々と受け継がれるこの能楽の伝統こそ、佐渡が「芸能の島」と呼ばれる所以です。
訪れる旅人も運が良ければ地域の奉納能を鑑賞でき、悠久の時を超えて息づく幽玄の世界に触れることができるでしょう。
佐渡が誇る見どころ – 金山からたらい舟まで
世阿弥の足跡を辿る旅と合わせて、佐渡島ならではの特色ある観光スポットもぜひ体験してください。
2024年に世界文化遺産に登録された「佐渡島の金山」。
その構成資産の中でも、中世から明治にかけて佐渡を支えた伝説的な黄金の島の遺産、「佐渡金山」は外せません。
佐渡金山は江戸時代から昭和に至るまで日本最大級の金銀山として栄え、その坑道の総延長は約400kmにも及びます。その一部約300mが現在は観光用に整備されており、江戸時代と明治以降の採掘現場を再現したコースを見学できます。
ひんやりとした坑内に足を踏み入れると、薄暗いトンネルの中で鉱夫たちがノミと槌で岩を砕く音が聞こえてきそうです。実際に坑道内には多くの人形が設置され、ろうそくの揺れる灯りの中で江戸時代の採掘作業の様子がリアルに再現されています。
カーンカーン…という岩を掘る音や、坑夫たちの掛け声が響く演出は臨場感たっぷりで、まるでタイムスリップしたかのような体験に思わず引き込まれるでしょう。
道遊坑を出ると目前には佐渡の象徴ともいえるV字に割れた山「道遊(どうゆう)の割戸」がそびえ立ち、400年にわたる採掘の壮大な歴史を物語っています。
ダイナミックな断崖と紺碧の海 – 佐渡が誇る絶景の海岸線
一方、佐渡の海もまた旅人を魅了します。
島の北海岸線は険しい断崖が続くダイナミックな景観で、なかでも尖閣湾(せんかくわん)は佐渡随一の景勝地として有名です。
荒々しい岩肌を白波が洗う様子は豪快で、晴れた日には海の青と岸壁の茶褐色とのコントラストが息をのむ美しさです。断崖の上から見下ろすと、海鳥が羽を休める岩礁の間にエメラルドグリーンの海水が透き通り、まるで絵画のような光景が広がっています。遊歩道や展望台も整備されており、季節によってはスイセンやハマナスなどの花が崖沿いを彩ります。
また、尖閣湾を含む外海府海岸一帯(約50kmに及ぶ海岸線)は「日本の秘境100選」に選ばれており、手つかずの自然が残る絶景ドライブコースとしても人気があります。
時間にゆとりがあれば車窓に広がる日本海と奇岩のパノラマを楽しみながら、佐渡島をぐるり一周してみるのもおすすめです。
佐渡の海を優雅に巡る – たらい舟で感じる島時間
さらに佐渡ならではのユニークな体験として忘れてはならないのが、相川金山とは対照的に南部の静かな入り江で出会えるたらい舟です。
桶をそのまま舟に仕立てた愛らしい小舟「たらい舟」は、元々は佐渡の海女たちが磯でアワビやサザエを採るために考案された伝統的な船です。丸く小回りが利くため岩場の多い入江で重宝されています。
現在でも現役で漁に使われていますし、観光用の楽しみとしても人気です。
小木では3か所の事業者で観光客向けにたらい舟の乗船体験が可能です。
櫂(かい)一本でくるくると巧みに舟を操る船頭さんの後ろにちょこんと乗れば、まるで自分も漁に参加しているような気分!
波に揺られながら海の風を感じれば、佐渡のゆったりとした島時間を身体いっぱいに味わえることでしょう。
佐渡島、忘るべからず
能楽の大成者・世阿弥が流された佐渡島は、逆境の中でも芸の初心と花を追い求めた彼の魂が今も生き続ける場所です。
歴史ロマンあふれる世阿弥ゆかりの地を巡り、島民に受け継がれる能の舞に触れ、そして佐渡ならではの雄大な自然や文化体験に心洗われるうちに、きっとあなたも何か大切な「初心」を思い出すに違いありません。
豊かな歴史と自然に彩られ、「佐渡島、忘るべからず」――
一度訪れたら決して忘れられない感動が待つこの島へ、ぜひ足を延ばしてみませんか。
さど観光ナビでは、今回ご紹介した場所以外にも旅を充実させる情報が満載です。さあ、次はあなた自身が佐渡島を訪れ、心に残る物語を紡いでみてください。きっとその旅は、「初心忘るべからず」の言葉とともにいつまでも心に刻まれることでしょう。





